函館・道南の魚
2005-07-15 vol.328
函館・道南の海の知識!子供・魚好きにオススメの水産資料館
7月18日は「海の日」。夏休み、そして海水浴シーズンでもあるこの時期に、身近にある道南の海について見つめてみませんか——。今回は『北海道大学大学院水産科学研究院』の矢部衞助教授、同大学総合博物館・今村央助教授に道南の海について伺いました。
【海の日/特別企画】ふるさとの海のことを、どれだけ知っていますか?
道南の海はとても豊か
渡島半島を境に、西側に日本海、東側に噴火湾、そして南側には津軽海峡という道南の海は、海底の形状もバラエティに富み、さらに複数の海流が入り交じることで全国的にもとても豊かなのだそう。この豊かな海に囲まれた函館市にある『北海道大学水産学部』は、世界でもトップクラスの海洋研究施設として知られています。
道南の海底はどうなっているの?
海底の形状は主に砂地と岩場に分けられますが、道南の海にはそれぞれが混在しています。エリアを狭めて函館周辺の海をみると、函館山を境に西側の上磯方面に砂地が多く、逆に東側の恵山方面は岩場が比較的多くみられます。
それぞれの海の違いは?
親潮が流れ込む噴火湾は、比較的冷たい海、逆に対馬海流(黒潮の分流)が流れる日本海は比較的高温の海です。冷たい海流と暖かい海流が交じり合う津軽海峡は、冷たい海流に含まれた豊富な栄養が暖かい海流で温められることで、小魚のエサとなるプランクトンが多数繁殖するため小魚が豊富です。そしてその小魚をエサにする魚が集まるため、津軽海峡は魚種に富んだ場所として知られています。
道南にはどんな魚がいるの?
魚には大きく分けて、生涯ほぼ同じ場所で暮らす魚と、季節ごとに回遊する魚がいます。同じ場所で暮らす魚の種類は、海底の形状などによって異なります。道南の砂地の海に住む魚といえば、何といっても有名なのがカレイ。カレイの種類は豊富ですが、道南でも10種類以上のカレイが生息しています。代表的なものはマコガレイ、スナガレイ、マガレイ、ババガレイなど…。どれも、スーパーマーケットでよく見かけるカレイですね。ほかに砂地にはハゼ、キスといった魚もみられます。岩場に住む魚といえば、カジカ、ソイ、アイナメ(アブラコ)といった魚が有名です。季節ごとに道南の海に回遊してくる魚では、夏場のブリ、マグロ、秋のサバ、カマスなどがよく知られています。
海の状況は変わるの?
海の状況は波や潮、海流などといった海水の動き(次のページで紹介)によって絶えず変化しているほか、人工的なものによる環境の変化、さらには漁獲などによって変わります。魚の回遊や生息場所は、魚の産卵時期、繁殖時期などによって変わります。
海のことを知る場所はあるの?
意外と知られていませんが、市内港3丁目にある北海道大学水産学部のキャンバスの中には「水産資料館」という、一般に開放している施設があります。資料館は3室の標本室と別館からなり、世界の代表的な魚類およそ550種類の展示など、海に関する資料を多数展示しています。
大切に保存されているたくさんの標本は見ているだけで楽しさが広がります。また、国内唯一のニタリクジラ(全長15メートル)の完全骨格標本は圧巻。じっくり見学すれば、あっという間に時間が過ぎてゆくことでしょう。
また、この資料館では2年前から小中学生向けに「ミニレクチャー」を開催していますので、海や魚のことを学びたい人は、ぜひ参加してみてはいかがでしょう。
水産資料館(入館無料)
平日/10:00〜16:30 第1、3土曜日/9:30〜12:30 (5〜10月) 第1、3土曜日以外の土曜日 (11〜4月は毎週土曜日)と 日曜日、祝日休館
水産資料館ミニレクチャー
- 7月16日 アニメ“シャークテイル”とサメのお話(仲谷一宏教授)
- 8月9〜10日 夏休み企画「お魚の分類入門教室」(今村央助教授)
- 9月17日 イカとタコの仲間たち
各午前10時頃から30分間
詳細は…
北海道大学水産学部
水産資料館
Tel:40-5553
海と魚、その未来は?
北海道大学大学院水産科学研究院では現在、「海洋生命統御プロジェクト」や「食糧安全保障プロジェクト」に取り組んでいます。
例えば、ニジマスにウナギを産ませるなどといった他種の魚に配偶子を産ませる借腹養殖や、試験管内で配偶子や胞子を生産し、魚や海藻を大量生産するなどといった取り組み。さらには魚の伝染病を防いだり海の環境汚染と人体への影響の関係を詳しく調べたり、さらには海洋生物から人間の現代病の特効薬を探すなどといった研究が日々、進められています。
楽しんで、そして海を学ぼう
世界の海には25000種類もの魚がいるといわれ、そのうち日本にも4000種類近い魚がいるといわれています。それでもまだ、毎年たくさんの新種の魚が発見されているなど、海にはまだまだ私達人間が知らない謎が数多くあります。
今回、取材でお世話になった今村央助教授は「僕は子供の頃、家の近くの川で遊んでいるうちに魚のことがもっともっと知りたくなり、いつの間にか現在の仕事をするようになりました。何度か新種の魚を発見したことがありますが、その時の喜びは最高です」と話してくれました。さらに「せっかく海が目の前にある街で暮らしているのですから、函館の子供達には、もっともっと海と接して、まずは興味を持って楽しみ、そして学んでほしい」と…。
手の中に入るほどの海辺の砂には幾つもの生命があり、海をのぞいても見えない深い海の底では、様々な自然のスペクタクルが絶えず展開しています。また、海は人の往来、運送など、昔から私達人間の暮らしと密接した関係を持ち、さらには私達に食の恵みをもたらしてくれます。
この特集を目にした読者の皆様のお子さんの1人でも多くが海への興味を深め、将来、海にまつわる未知の世界を広め、壮大な海のロマンを、この街で語ってくれることを願ってやみません。
(以上、取材協力・資料提供/北海道大学大学院水産科学研究院・総合博物館)
もっと知れば楽しさ倍増海にまつわる豆知識…
海の知識編
7月の第3月曜日は「海の日」
7月18日は「海の日」。明治9年7月20日、明治天皇が東北地方巡幸の際に灯台視察船「明治丸」で、青森から函館を経て横浜にご安着された日に由来します。
昭和16年から毎年7月20日は「海の記念日」として海事産業などについて国民に理解を深めてもらうための行事が全国各地で開催されるようになり、平成8年から7月20日を国民の祝日「海の日」として制定。同13年からは7月の第3月曜日が「海の日」になりました。
島国である日本は、太古より人の往来や輸送、産業、生活など様々な分野で海と深く関わってきました。特に今日は海洋開発やマリンスポーツの普及など、海に関わる話題は多様化の一途をたどり、さらに地球環境の側面からも海の役割が重要視されています。そんな我が国の中で、歴史ある港街として海とともに歩んできた函館市は、東渡島の町村との合併などを機に、国際的な水産・海洋都市を目指しています。
前述の通り、「海の日」の由来も、函館市と密接した関係があります。海水浴シーズンを迎えたこの時期、私達の暮らしと切り離すことができない海について、あらためて知識を深めてみてはいかがでしょう。
海の水は何故、青いの?
海の水は何故、美しい青なのでしょう。海の水は赤い光を吸収し、青い光だけを反射させます。
一般的に青い光は赤い光よりも水による散乱が大きいため、海の水は見た目には美しい青い色に見えるのです。
海の水は何故、しょっぱいの?
太古の時代、大気中の水蒸気と塩化水素が塩酸の海を作りました。さらに、空から降ってくる雨が、地表のナトリウムやカルシウムを溶かして海に流しました。そうした活動が、地球上で10億年もの間繰り返され、塩素とナトリウムが溶けている、しょっぱい海になったわけです。
海は動いている
海は、波や潮流(ちょうりゅう)、海流といった自然現象によって絶えず動いています。波は大洋に吹く風によって発生します。潮流とは、月と太陽の引力によって海面が上下する潮汐(ちょうせき)により生じる流れです。海流は主に、海洋中の海水の密度の差や海水と風との摩擦により生じる大洋の流れです。日本近海の海流は、暖流と寒流とに大別することができます。ちなみに、函館に面した津軽海峡には対馬海流、リマン海流、千島海流(親潮)といった3つの異なった海流が流れ込んでいます。
海水浴シーズンに穏やかな海辺で手こぎボートで遊んでいる時、波はないはずなのにどんどん流されてしまった経験はありませんか? これは潮に流されているためです。また、海で楽しむ釣りは潮流や潮汐によって、その釣果が大きく変わってきます。そのほか、サーフィンやヨットなどといったマリンスポーツの多くは、様々な海の自然現象を相手にするスポーツです。海の自然現象を知ることは、海で安全に、そしてより楽しく遊ぶことにつながります。
海の観察編
近くの磯の生き物を観察しよう!
海辺には不思議な生き物がいっぱい。近くの磯の生物などを持ち帰り観察してはいかがでしょう。夏休みの自由研究にも役立つ海辺の生物の観察について海水魚に詳しい、市内中道2丁目の『熱帯魚センター』の板垣武主任に聞きました。
写真/板垣 武さん
観察のためにそろえる物
自宅で磯を再現して観察するためには、水槽と水中フィルター、エアポンプ、それに水中フィルターとエアポンプをつなぐホースが必要です。今回はそれらが全てセットになった金魚飼育用セット(S)での観察例を紹介しましょう。
まずは近くの磯で採集しよう
近くの磯に出かけて、浅瀬や潮だまりにある小岩や生物を採集します。磯には突起した岩や毒性のあるイソギンチャク、捨てられたガラスの破片などがありますので、必ずゴム手袋と長靴を着用します。まずは海の底の砂利を4㎏程度と、水槽サイズに合った小さな岩を幾つか採集します。海藻などが付着した岩を見つけることもできますので、じっくり探しましょう。次に、生物を探します。エビ類やカニ類、貝類は比較的簡単に見つけることができます。運がよければイソギンチャクも見つけられます。小魚は網ですくいますが、潮だまりにいる小魚の方が採集しやすいでしょう。金魚飼育用セット(S)で観察できるのは2〜3センチの小魚がせいぜい1〜2尾です。見つけやすくて、丈夫なのはハゼ類です。採集が終わったら、その場所の海水を12ℓ、ポリタンクや空のペットボトルなどに入れて持ち帰ります。
採集したものを水槽にセッティング
水中フィルターとポンプを正しくセットしたら、砂利を敷き、砂利の中に水中フィルターを7割ほどの深さに埋めます。小岩を配置し海水を入れたら、最後に生物を放します。小岩を組み合わせて、魚が隠れる場所を作りましょう。
あら不思議、やがて色々な生き物が…
水槽をセットして2〜3日経つと、水槽内にバクテリアが繁殖して水にも透明感が増します。小魚には観賞魚用のエサを与えましょう。やがて1〜2週間の間に、不思議なことに採集した生物以外の小さな生物、特にエビ類などの姿を色々見つけることができます。色々な生物の卵が、採集した砂利や小岩、海藻などに交じっていたためです。新しい命の誕生をじっくり観察しましょう。※なお、この水槽のセッティング例は観察用のものであり、長期飼育用のものではありません。
問/熱帯魚センター
Tel:55-6001
【豆知識】水槽の魚は何故、生きていられるの?
採集した海水にはバクテリアという微生物が生きていて、そのバクテリアが水槽内の砂利や小岩、さらに水中フィルターの中の「ろ材」に付着し、繁殖します。魚のフンやエサの食べ残しは生物に有害なアンモニアになりますが、バクテリアはアンモニアを分解して、魚にとって比較的無害なものにしてくれます。また、魚やバクテリアのために必要な酸素が、エアポンプから送られます。だから水槽の魚は、生きていられるのです。