企業の再建が描かれた実話小説
『小説 会社再建 太陽を、つかむ男』 集英社文庫 高杉良著
私は、高杉良さんの経済小説が好きで、いろいろな作品を読んできたのですが、なかでも20代後半の頃に読んだ『小説 会社再建 太陽を、つかむ男』という小説がとても面白くて忘れられない1冊として心に残っています。
内容は、オイルショックによって経営破綻寸前になった長崎県佐世保市の企業・佐世保重工業の再建に取り組んだ来島どっくの坪内寿夫社長という人物の実話が描かれたもので、労働組合の力が強力なことなどを理由に再建が難しかった企業に溶け込んで会社の救済に取り組む坪内社長の手腕は、読んでいてとてもためになりました。
また、来島どっくの坪内社長といえば、函館どつくの経営にも携わったことのある人物としてよく知られていますので、より興味が沸きました。私は社会の教師ですので、やはり地域の産業というものについて知識を深める必要があると思っています。ですからこの小説は実に興味深く、学ぶことも多かった1冊といえるでしょう。
『函館工業高等専門学校』准教授 奥平 理(おさむ)さん
プロフィール
函館工業高等専門学校准教授。都市地理学・経済地理学の分野で造詣が深く、街作りの語り部的存在として注目されている。
本から学んだ人生観
『罪と罰』 岩波文庫 ドストエフスキー著
高校生の頃、冬期間はバス通学でした。盛岡の冬道は雪のため渋滞が多く、着くまでに1時間程かかります。退屈しのぎに始めたのが読書でしたから本選びもいい加減なもので、なるべく長編が良いという理由だけで手にしたのがドストエフスキーの『罪と罰』。
読み始めたら、まずは主人公のラスコーリニコフという名前が覚えづらく、読むだけで相当のストレスでした。さらに、予想もしなかった設定と展開、主人公のあまりにも身勝手な人生観に嫌悪感さえ覚えたものです。それでもなんとか読み進めたのは、中途で投げ出したくないという意地だけでした。ところが、読み終える頃には物語の壮大さにすっかり魅了され、残りのページに名残惜しささえ感じたほどです。そして、バス通学が終わる春頃には、本の虜になっていました。本からは、色々な人生や価値観を学ぶことができます。人生の岐路に立たされた時、本から学んだ人生観が正しい方向を教えてくれた気がします。
『医療法人社団吉田歯科口腔外科』理事長 吉田 康仁さん
プロフィール
吉田康仁さん『医療法人社団吉田歯科口腔外科』理事長。本紙「歯医者の料理」コーナーの著者としてもおなじみ。
世界のホンダ〟を学ぶ1冊
『経営に終わりはない』 文春文庫 藤沢武夫著
私が、『経営に終わりはない』という本を初めて読んだのは、今から5年ほど前です。著者の藤沢武夫氏は本田宗一郎氏とともに〝世界のホンダ〟を築いた経営者です。本田氏が優れた技術者だったのに対し、藤沢氏は経営者としてその手腕を発揮し、本田技研工業の経営を全面的に支えました。
著書を通じて、ビジネスに必要なのは明確なビジョンと、技術と経営の両輪のバランスであることを学びました。私は学生時代から洋服が好きで、東京と差のないお洒落な店を函館に作りたいと起業しましたが、アパレル業を展開する中で、自分好みのものばかり売ろうとしてもダメだと気づきました。そういう経験もこの本に書かれている内容との共通点です。私共の会社も店舗やスタッフが増え、新卒採用もするようになりましたが、経営者としての覚悟と情熱を奮い立たせてくれる1冊です。いつも読んでいる本なのですぐにボロボロになってしまい、今持っている本は4冊目になります。
『有限会社ファーストフラッシュ』代表取締役 小林 一輝さん
プロフィール
道内・東北地方にアパレル6店舗、外食5店舗を展開する『有限会社ファーストフラッシュ』の代表取締役。
手をつなぐことの大切さを伝える1冊
『てとてとてとて』 福音館書店 浜田桂子著
「手をつなぐことは心とつながること」を感じてもらえたらいいと、読み聞かせの活動にもよく使うこの絵本には、手でできる事がたくさん描かれています。例えば、手を叩くと楽器にもなるし、水をすくってコップの代わりにもなるし、手話を使うと手で話もできて、点字を使うと手で文字を読むこともできます。そして、絵本の最後は、「手は心が出たり入ったりするところなのかもしれない」という呼びかけで終わります。
今の時代はインターネットを通して人と出会うことはできるけれど、手をつなぐことはできません。手のぬくもりは手をつながないと分かりませんよね。挨拶や仲直りの握手、手を握って励ますなど手をつなぐことによって気持ちも変化するように、手が持っている力ってとにかくとてもすごいんです。手をつなぐことでみんなとつながることができたら素敵ですね。ちょっと手をつなぐことが恥ずかしい時は、この絵本が背中を押してくれるはずです。
『函館絵本の会 銀のふね」副代表 岸本 和子さん
プロフィール
函館市内や近郊の図書館などで子供達に絵本の読み聞かせを行っている『函館絵本の会 銀のふね』の副代表。
今につながる、父からプレゼントされた1冊。
『CD絵本 作曲家おもしろ図鑑』 ヤマハ株式会社(非売品)
4歳の頃、ピアノレッスンに通い、ピアノを弾きはじめるって時に父からプレゼントされた本です。
内容は、バッハやモーツァルト、ベートーベンなどクラシック作曲家達の人となり、逸話などを紹介するというものでしたが、もらった時は4歳。ほとんど内容は理解していませんでした。でもセットになっているCDを聴きながら、毎日この本を開いていましたね。小学生になり、少しずつ内容を理解できるようになって、さらにこの本が好きになっていきました。調べてみると、この本は非売品なんですよ。音楽好きでもない父がなぜこの本をプレゼントしてくれたか、今となっては分かりません。私が小学校5年の頃に亡くなったので…。もうページもバラバラになっちゃいましたが、今でもこの本を開くことがあります。歴史上の人物となったクラシックの巨人達も、自分達と似たような悩みを持ち、人間らしさにあふれていたという事実は、なんだか私に勇気をくれるんです。
シンガーソングライター mokaさん
プロフィール
今年で活動10周年を迎えるシンガーソングライター。10月18日開催の「ON THE STREEET HAKODATE」に出演予定。
世界を広げた9文字
『印度放浪』 朝日文庫 藤原新也著
この本には、栞代わりにカセットテープのラベルが挟んである。これを挟んだのは中学生の夏。風邪をひき寝込んでいて、退屈しのぎに読んでいた本のうちの1冊、この『印度放浪』下巻105ページで、私はたった9文字から目が離せなくなった。
〝世界は、良かった。〟…ああ、世界って、いいんだ。衝撃を受けた。私は手近なカセットテープのラベルを挟んだ。
それからの私は、世界を広げることを第一目標にした。だって〝世界は、良い〟んだもの。行ったことない世界、知らない世界。物理的にも精神的にも世界は広がり、私の中に〝良い〟ものはたまり続けた。
今でも私は折に触れ、この本のこのページを開く。そして〝世界は、良い〟ということを再確認する。カセットテープがCDになり、そしてダウンロード音楽になった今も、この本のこのページに挟んであるカセットテープのラベルは、今後もまだ私のもとからなくなりそうにない。
『高龍寺』住職 永井 正人さん プロフィール 2011年より高龍寺住職。2012年には、曹洞宗大本山永平寺の顧問に、同寺800年の歴史の中、最年少で就任した。
くじけそうな時に勇気づけられた1冊
『誕生日大全』 主婦の友社 サッフィ・クロフォード、ジェラルディン・サリヴァン著、アイデイ訳
本格的に今の仕事をやっていこうと思っていた15年ほど前が、この本との出会いです。
何となく目についた本でしたが、366日の誕生日別に性格や運勢、仕事や人間関係などが載っていたので、自分の誕生日のページめくってみました。すると、仕事をはじめる上で最後の一押しをしてくれているような言葉がいくつもあり、偶然ではないように感じました。
あれから月日は流れましたが、仕事を続けてゆく中でくじけそうになった時には、もう1度読み返しては「自分にはできる」と、勇気をもらってきた本です。
また、私と同じような思いで自分の誕生日のページを読まれる方に差し上げているうちに、気が付けば、いま手元にあるのは7冊目。
何かに迷ったり悩んだりした時に、偶然目にした言葉から大切なメッセージを受け取ることがあると思います。
『株式会社MORE ROSE』代表取締役 村上有香さん
プロフィール
結果型エステサロン『株式会社MORE ROSE』代表取締役。いち早く最先端美容機器を導入して注目されている。
音楽を深く知るきっかけをくれたカタログ的名著
『THE ROCK BOOK?ロック名盤カタログ?』 宝島社(絶版)
この本は、FMいるか入局が決まった時に、大学入学前にアルバイトをしていた中古CDショップのオーナーさんから、「そういう仕事をするなら、この本が役に立つから」と渡された本なんです。でも私は情報番組の担当が多く、音楽番組に関わることがなかったので、この本はずっと局内のロッカーに置きっぱなしでしたが、昨年名盤を紹介するコーナーを担当することになり、借りてから10年を経て遂にこの本が日の目を見る事になったんです(笑)。
番組を担当して感じたのは、名盤と言われる音楽はやっぱり素晴らしいということ。そして、リスナーさんからの反応も特徴的で、音楽とともに当時の想い出を振り返る投稿がとても多かったですね。恋愛や仕事、人生の様々な場面で音楽と接しているんだと実感しました。秋の改変でコーナーの放送時間が変わりますが、今後もこの本を活用しながら定期的に多くの人に愛される名盤を紹介していけたらと考えています。
『FMいるか』パーソナリティ 佐藤 はるかさん
プロフィール
2005年FMいるか入局。現在は金曜日午後4時から放送中の『ラバーソールとルチャドール』などを担当。
わたしと窓ぎわのトットちゃん
『窓ぎわのトットちゃん』 講談社 黒柳徹子著
トットちゃんとの出会いは、小学2年生の国語の授業でした。「畑の先生」という章が教科書に掲載され、それがとても面白かったのです。学校から帰って母に話し、すぐに『窓ぎわのトットちゃん』の単行本を買ってもらい、夢中になって読みました。
この本に出てくる「トモエ」という小学校に通ってみたい、こんな校長先生に出会いたい、とワクワクしながら…。時には、涙を流しながら。思えば本を読むことが好きになったきっかけもこの本であり、先生がトットちゃんに言っていた「君は本当はいい子なんだよ」という言葉は、その後の人生で私をも励ましてくれました。現在、私が曲がりなりにも教育に携わる仕事をしているのも、無意識にこの本の校長先生の姿があったのかもしれません。本の中の校長先生の存在は大きすぎて目指すことすら出来ないけれど、自分が関わる1人ひとりの良いところを沢山見つけ、ほめながら伸ばしていければ…と思い日々仕事に向かっています。
『はこだてセカンドスクール』塾長 山崎 藍さん
プロフィール
「はこだてセカンドスクール」塾長。本紙コーナー「親子学習のすすめ」も好評連載中。
私のインターネットのバイブルです
『UUCPシステム管理』 アスキー ティム・オレイリー、グレース・トディノ共著
この本は、まだ日本にプロバイダーができるずっと前、インターネットが普及していない時代に、自宅から大学や研究所のネットワークに接続しようと勉強したなかの1冊です。この本、当時の自分には難解でホンズケなかったのですが、試行錯誤を重ねてようやく接続できました。
何度も何度も繰り返し読んだので手垢でいっぱいの思い出の1冊なんです。手垢を見るにつけ当時のことを思い出します。趣味とはいえ独学だったので苦労しました。
その時に来た初めてのメールの感動は今でも忘れることができません。
本を通じて、プロの方をはじめ多くの人と知りあうこともできまして、いまだに親交が続いています。
さしずめ〝本〟がもたらした出会いでしょうか? この出会いが1番の財産だと思っていまして、この本に出合って24年、未だネットオタクです(笑)。
※編集室注/「ホンズケなかっ た」は北海道の方言
『函館の飲み食い日記』管理人 函館の飲み食いオヤジさん
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月に18万人が訪れる人気のブログ『函館の飲み食い日記』を運営。年齢・体重不詳、本名・顔写真非公開。