無性に「ワム!」が聴きたくなる
『噂のメロディ・メイカー』 扶桑社 西寺郷太 著
『株式会社peeps hakodate』代表・編集長 吉田 智士 さん
『peeps hakodate』編集長。「その人の本棚にずっと残り続ける1冊」を目指し、日夜執筆・編集にはげむ。
話の発端は2008年の岡山。ミュージシャンの西寺郷太は、そこで「『ワム!』の代表曲『ラスト・クリスマス』は、実は日本人のゴーストライターが作曲したもので、その本人は香川県にいる」というとんでもない噂を耳にする。その後、著者は独自に調査活動を重ね、ついに香川でその当該人物=噂のメロディ・メイカーと接触します。本著は小説とうたいながら、噂の存在自体や調査過程は本当の話で、登場人物も全て実在。つまり虚実皮膜のノンフィクション風小説の趣きです。何かを主題に取材するとき、大事なのは私的好奇心です。「誰も興味をもたないけど、おれは興味があるから調べて記事にする」と独善的にならなければ前に進めません。本業そっちのけでこの噂の真実を数年間追いかけた著者に、改めてそのことを学びました。そして話の内容そのものが抜群に面白いので、シンプルに元気が出ます。読後、無性に「ワム!」の例の曲が聴きたくなるのは言うまでもありません。
武士になろうとした私
『孫子の兵法がわかる本』 三笠書房 守屋洋 著
ミュージシャン ワタナベヒロシ さん
トラベリングバンド『ひのき屋』のメンバー。学童クラブひのてんの放課後児童支援員 としての顔も持つ。
武士の生き様に憧れを抱いていた私は、「武士道」(三笠書房 新渡戸稲造著 奈良本辰也訳・解説)を読み、武士は皆、中国の古書に学んでいたことを知りました。そこで私も論語をはじめ、中国のあらゆる古書を読み漁りました。それらを全て会得した時、私にも武士の魂が宿るのではないかと思い込んでしまったのです。中でも熱心に読み込んだのは「孫子の兵法がわかる本」。この本は古い兵法書でありながら、普遍的な人間心理を描いている孫子を分かりやすく解説しています。学生時代はこの本をはじめ孫子関連の本を何冊も読んだほか、筆で書き写して巻物を作ったりもしました。そのせいか自分が困難にぶち当たった時に選んだ解決方法が、後から考えると実は孫子の教えに沿っていたなんてことが多々ありました。孫子は私にとって「元気にしてくれる」というよりは、「困難にぶち当たっても、元気に生きていく方法を教えてくれる存在」なのかも知れません。
諦めなければ想いはきっと叶う
『人生はニャンとかなる!』 文響社 水野敬也・長沼直樹 著
『函館栄好堂』店長 石井 明子 さん
函館人に長年愛され続ける書店『函館栄好堂』に勤務し、丸井今井店開設の際には店長に就任した。
ひと目見ただけで心から癒されるネコの写真の下には、歴史の偉人や俳優、ミュージシャン、芸術家などの著名人が残した名言が書いてあり、そのページの裏にはその名言が生まれたエピソードが書かれている1冊です。また、その名言と同じような意味を持つ別の著名人の名言も同時に掲載されているという編集も素敵です。私は仕事に行く前にペラペラとページをめくって気になったページを読んで、そこに書かれた名言をその日のテーマにしています。小説などと違って1ページ目から読み始めなくていい気軽さもいいですね。ちなみに私が最も気に入っている名言は、俳優のハリソン・フォードの「春は、必ずやってくる」という言葉です。大工をしながら俳優業をしていたハリソン・フォードが、大工仕事がきっかけで35歳の時に「スター・ウォーズ」に抜擢されたエピソードが心に残ります。諦めなければ想いはきっと叶うという内容が、私を元気にしてくれた1冊です。
今でも年に1度は読み返す1冊
『動物のお医者さん』 白泉社 佐々木倫子 著
ミュージシャン 土橋 アミ さん
地元・函館の音楽ユニット『カポ』のボーカル。函館近郊で「歌声カフェ」などを開催している。
私は高校卒業後に東京都にある美術専門学校に進学しました。その専門学校に通っていた友人が、「この本、面白いから読んでみて」と何気なく勧めてくれた漫画が北海道にある大学の獣医学部のお話「動物のお医者さん」。漫画の中では人と同じように動物の気持ちも文字に書き表されているところもあり、人と動物との関わり方や、動物の感情などがとても分かりやすくなっています。読みながら私が昔飼っていた犬のことを思い出したこともあります。北海道が舞台になっているので、なじみ深い地名が作品中に出てくることや、私が「北海道民らしいな」と、好感を持った「個性豊かな人々に振り回されても淡々とかわす主人公の北海道民らしさ」や、聞き慣れた北海道弁が使われていることに親近感が湧きました。慣れない土地での生活で地元が恋しくなってちょっとホームシックになっていた私を元気づけてくれたこの本は今でも年に1度は読み返す大切な本です。
どんな時もユーモア(オヤジギャグ)を!
『火星の人』 ハヤカワ文庫 アンディ・ウィアー 著
本を読まない人のための本屋『ワンダフルワールド!』店主 上村 佳樹 さん
本に限らず、雑貨やアパレル、インテリア、店主が気に入ったモノは何でも置いちゃうというヘンテコ本屋店主。
宇宙飛行士のマーク・ワトニーは火星探査中、事故で死亡したと思われ火星に1人置き去りにされます。近く食料が尽きるのは明白で、地球との連絡手段すらありません。生き残る可能性は極めてゼロの近未来サバイバル小説です。
この物語に私が最もシビれるのは、死に片足を突っ込んだ状況に置かれても主人公がユーモアを忘れないところです。広い宇宙で気が狂いそうな孤独。その中でも軽口を叩いて自分を鼓舞し、ひとつまたひとつと困難を乗り越えて行くのです。押し寄せる逆境を乗り越えるにはさまざまな能力が不可欠です。しかし恐怖や不安に囚われてしまえば、本来の実力を発揮できません。昨今の世の中も大変ではありますが、それでも笑いを交えて乗り越えたいと思わせてくれました。
あなたの職場のオヤジギャグを連発する上司も、ユーモアで皆様をリラックスさせようとしているのかもしれません。苛立たせてしまっては逆効果なのでございますが…。
誠意を尽くして運を引き寄せる
『あなたは絶対! 運がいい』 廣済堂出版 浅見帆帆子 著
『MS保険サービス北海道株式会社』専務執行役員 髙梨 しのぶ さん
本紙広告でもおなじみ『Hosta函館』でCFPと1級ファイナンシャル・プランニング技能士として活躍。
この本との出会いは、なんとなく読んでいた新聞の書籍紹介欄。普段はこの類の自己啓発本は読まないけれど、紹介内容が日頃心がけていることと重なったこともあり、読者プレゼントに応募したところ、ほどなく私のもとに届いたというものだった。「運のいい人、悪い人を決定しているのは、全て自分。プラスのパワーを溜めると自然に悩みが解決される」。「小さなことに文句を言わない」。「本当になったら困ることは、冗談でも言わない」。この本に書かれていることに共感したことはもちろんだが、運を引き寄せるために必要なプラスのパワーを溜める方法が実に簡単でいますぐ実行できることにワクワクした。その中から私が出した答えは、「いつでもできる良いことをする」(清々しい気持ちになる行い)というもの。例えば、人に親切にする。横入りしたい人には譲る。困っている人に声をかける。目の前にあることに誠意を尽くすことで、プラスのパワーが溜り道は開けると信じている。
料理を作る楽しさと大切さを知った絵本
『ノンタンのたんじょうび』 偕成社 キヨノサチコ 著
『3valley(スリーヴァレイ)』店主 三谷 あゆみ さん
今年、湯浜町にオープンした、食・設備・心の3つのバリアフリーを掲げる『3valley(スリーヴァレイ)』店主。
当時通っていた幼稚園に本屋さんが来ていて、その時に母と一緒に選んだのが「ノンタンのたんじょうび」。
この絵本は主人公「ノンタン」のお誕生日にお友達がケーキやクッキーなどを作ってサプライズパーティーを開くというお話で、本に登場したクッキーのレシピが描かれているんです。そのレシピを見て実際に母とクッキーを作ったことで料理を作る楽しさを知り、みんなが喜んでくれたことで、自分の作った料理で人を喜ばせたい、幸せにしたいと思ったのが今の仕事に就いたきっかけです。
正直、この絵本はもう手放していて忘れていたのですが、今回のオファーをいただいた時に、「この本が私のルーツだな」と思い出したらどうしても欲しくなって、今度は自分で購入しました。この絵本のおかげでもっと元気が出たので、よりたくさんのお客様に元気の出る料理を提供して、食の大切さも伝えながら、たくさんの人を元気づけていきたいです。
手術前に元気をもらった本
『蘇える変態』 マガジンハウス 星野源 著
八百屋『すず辰』店主 鈴木 辰徳 さん
全国から取り寄せるこだわり野菜が評判。バリバリ働く研究者の妻とともに、3人の子供を育てる主夫でもある。
くも膜下出血と脳動脈瘤から復活した、歌手で俳優の星野源さんのエッセイ集。ちょうど私も3年前、頭蓋骨の内側を覆う膜にできたこぶ(腫瘍)を取り除く手術をすることになり、違う病気ながら「脳つながり」から、尊敬する大学時代の先輩が送ってくれました。
文中に、術後痛みから全然食欲がなかった星野さんに対し、看護師さんが「女性は術後すぐ食べますけどね。男は大体ダメですよね」みたいなシーンがあります。食にかかわる商売をしている身として、「術後すぐ吐いてでも食べてやる!」と息巻いていましたら、中学時代の友人から「吐きそうなのに食べへんやろ? まぁ、お前変態やしな」と言われて、見事にリンク! 手術前になんか元気をもらった本です。
本のタイトルの「変態」は、人は皆変態だっていう星野さんの認識からのもので、「めちゃくちゃ人間らしい」といった意味。星野さんの変態っぷりをおおらかな心で読んでみてください。第1話は「おっぱい」です(笑)。
仕事が落ち着いたら食べに行こう
『大好き! フルーツパーラー』 辰巳出版 レシピブック&ガイドブック
『函館フーズプランニング』代表取締役 高野 信子 さん
『函館海鮮居酒屋 魚まさ五稜郭総本店』を運営。ご当地ビアカクテルの普及を図る「函館ガラビー協会」の代表も務める。
全国各地の有名店のフルーツメニューをカラー写真で紹介してくれる「大好き! フルーツパーラー」を何度も読み返しています。心が疲れた時にページをめくると、子どもの頃に母が連れて行ってくれた東京・千疋屋のパフェのおいしさが今もよみがえってくるよう。店内も高級感にあふれていて、子ども心にも、「フルーツパーラーは特別な空間なんだ」と感じていました。それ以来、フルーツの魅力に取りつかれた私。函館の三越にあったフルーツサンドも懐かしいです。甘いものは人を幸せにするし、気持ちの逃げ道になってくれる存在だと思います。この本は見ているだけでも心が和んで、「仕事が落ち着いたら食べに行こう」と元気が湧いてきます。
なかなか全国には食べに行けませんが、函館でもパフェやあんみつなどを結構ひとりで食べ歩いています。いつかは自分でフルーツパーラーを開いてみたいですね。フルーツパーラーって、ワンダーランドじゃないですか?
大人の心にも子供の心にも語りかけてくる絵本
『あさになったのでまどをあけますよ』 偕成社 荒井良二 著
『絵本とコーヒーの店 キリン』オーナー 白井 和也 さん
市内某CDショップで20数年勤務後、『絵本とコーヒーの店 キリン』を開業した。江差町生まれ。
子供の頃読んでいた作品が何10年経った現在も読まれ続けていることに驚き、高齢でも元気に活動されている作家さんが多いことに勇気をもらい、絵本の素晴らしさを再認識しました。そして、私の知らない絵本作家さんがたくさん活躍されている事を知り、もしかしたら、私のように絵本の魅力を忘れている大人が世の中にいるかも? それは勿体ないと思い、大人に絵本を紹介できないかと考え、2019年の春にこの店をオープンしました。そんな私が数年前まで知らなかった作家さんの中で、1番惹かれたのが荒井良二さんの絵本。もともと絵画を見るのが好きで、手に持っていつでも観る事ができる絵画があればいいなぁと思っていたので、ぴったりハマりました。山の近くに住む人、海の近くに住む人、街の中に住む人、誰にでも同じ朝が来て、窓を開ける。そんな普通の事が1番と気付かせてくれるこの絵本は、文字がほとんどなく、絵が観る人の心に語りかけ、子供にも大人にも気持ちが伝わる絵本です。