青柳町界隈
函館の青柳町こそかなしけれ
友の恋歌 矢車の花
豚木の有名な歌にも綴られた街、青柳町。その名前の由来は、当時、護国神社近くに柳の大木があったことにちなむという。美しい街並と、文化の香り漂うこの界隈に、今回はスポットをあててみた。今回もまた、ベスト10の順位はあくまで参考。発行主旨をご理解いただきながら、諸事情により取材することができなかった素敵な店や隠れた名所が幾つもあったこともあらためて特筆しておきたい。
1. 函館公園
函館公園は明治12年11月3日、道内初の公園として開園。渡辺熊四郎伝によると、明英国領事チャールズ・ユースデン夫妻から公園の必要性をとかれ建設計画がはじまった。
当初は市民の公園に対する理解が得られなかったため、開拓使から3千円の寄付金を受けて着手し、さらに公園世話係で7人寄付簿をつくり、3万円を集めたという。着工がはじまってからは、市民総出による公園作りが実現し、当時を振り返る文献には“擂鉢山は官吏から町民、芸者、囚人までモッコ担ぎして造った”と記されている。
道内初の石橋として知られる「白河橋」は、築園工事に当たった浅田清次郎氏の寄付によるもの。公園内には市立函館図書館、市立函館博物館などがあり、市民の文化の拠点として親しまれている。また、啄木の歌碑や小動物園など、散策コースとしてうってつけの見どころも数多く、小高い擂鉢山からは津軽海峡を望むことができる。また、桜の季節にはおよそ700本の見事な桜が咲き誇り、道南有数の花見名所として人気を集めている。
2. 函館護国神社
函館山の麓にある『函館護国神社』には箱館戦争、太平洋戦争の戦没者が奉られている。潮見丘にある広さ6000坪の境内は見晴らしもよく、函館市内を一望できる境内からの眺めは映画やTVドラマの舞台に使われることも多い。芝生では随時「芝神楽」「芝雅楽」が上演され、桜の満開の頃の5月11日に行われる毎年恒例の例大祭は、昔は臨時列車がでるほど賑わったという。
境内にはトリックアートの作品を飾った「潮見が丘ミュージアム」もあり、これからの観光シーズンは市民や観光客で賑わう。宮司の真崎不二彦さんは函館の歴史や文化に造詣が深く、社務所を訪ねてみるのもおもしろそうである。
●青柳町9-23
Tel:23-0950
3. JBハウス
函館公園向かいにある『J.Bハウス』。店の前を通ると微かに聞こえてくるジャズ。マスター自らがサックスを吹くというほどジャズが好きで、店内にはレコードがびっしり並んでいる。注目はカレー。マイルド、ハードいろいろあるなかで、特にお勧めはJB辛口カレー(730円)。ルーの中には赤唐辛子が入っていて、味はとても辛いが、それが後を引く美味しさ。毎日毎日仕込むカレールーには12種類以上のスパイスがブレンドされ、そのブレンドは天候や季節によって変えるほど手をかけている。マスター自身カレーが大好きで、美味しいカレーが食べたいと工夫したそうだ。カレーはほかにベジタブルカレー(中辛)730円、マイルドビーフカレー730円。カレーに合う黒ビール(ギネス、ドラフト各680円)もオススメ。コーヒーはブレンドコーヒー(460円)の焙煎が2種類。マイルドローストのタイプ1とじっくり炭焼き焙煎した苦味の強いタイプ2とがある。また、ウイスキーはシングルモルトのスコッチ(シングル700円~)が常時10種類前後ある。
営業時間11:30~22:00
定休日每週月曜
●青柳町19-4
Tel:27-1536
http://city.hokkai.or.jp/tomo/ip.html
4. 石川啄木居住地跡
薄幸の詩人、石川啄木が家族とともに暮らした家の居住跡が青柳町に残る。
明治40年春、一家離散という悲惨な状況の中で、啄木は函館の文学愛好家グループの「苜蓿社(ぽくしゅくしゃ)」に迎えられ、単身函館に降り立った。この家は弥生小学校の代用教員として生活の落ち着いた啄木が、家族を呼び寄せ暮らした家である。多数の朋友の温情にかこまれ、後に深いかかわりを持つ宮崎郁雨との友情が生まれたところでもある。集まっては夢を語り、歌を語ったその暮らしは啄木にとって後年「死ぬ時は函館で死にたい」と書かしめたほどである。その頃のことを歌った「函館の青柳町こそかなしけれ 友の恋歌矢ぐるまの花」はあまりにも有名。
その暮らしも8月25日の函館大火のために、勤めていた弥生尋常小学校や函館日日新聞社が焼けたため、9月13日あらたな職を求めて離函する。わずか132日の函館滞在であった。
5. 唐草館
閑静な住宅街青柳町にぴったりのお店が、フランス料理店「唐草館」。木製のテーブルと椅子、コツコツと優しい足音を響かせる木の床。テーブルにはシックな花々が彩りを添えている。食材は毎日市場に出かけて仕入れており、メインディッシュからスープまで手間をかけて作る味はどれも1級品。デザートはプリンやカンパリムース、チーズケーキが人気で定番。ほどよい甘さが定評。また、函館では珍しいチーズも自慢のひとつ。山羊チーズ、ベルギーのチーズなど本場フランスのチーズの味わいが楽しめる。ワインは60種ほど。ランチメ二ューは1500円~3500円。ディナーは3500円と5000円。グラスワイン450円~
営業時間は
ランチタイム11:30~14:00(ラストオーダー)
ディナータイム18:00〜20:30(ラストオーダー)
定休日は毎週月曜日、毎月第2火曜日
●青柳町21-23
Tel:24-5585
6. 函館山ふれあいセンター
函館山の麓にある「函館山ふれあいセンター」では、自然観察指導員とボランティアスタッフが、函館山の自然や歴史、環境などについて情報を提供したり、安全に楽しく登山ができるよう無料でアドバイスをしている。登山の前に、どのコースにどんな花が咲いているかや、季節によって変わる見どころを教えてもらうことで登山がより楽しくなる。また、一緒に登山をしながらアドバイスもしているので、初めての人や1人でも安心(日程が決まっている場合は予約の電話を忘れずに)。函館山はコースも多く、四季を通して登山できるためいつも新しい発見があるのだとか。6月中旬は、自生するツツジがいちばんの見どころで、特に汐見コースと千畳敷要塞跡周辺がおすすめ。また、登山道脇の石垣で親子のシマリスと出会うことが多い時期でもある。センターでは電話によるアドパイスも行っていて、函館山に関することなら何でもOKとのこと。
開館時間は午前9時〜午後3時
5〜10月は無休
11~4月は土・日曜、祝日閉館
駐車場30台
●青柳町6-12
Tel:22-6789
7. パン工房ほっペ
青柳町で人気のパン屋さん『パン工房ほっペ』は、平成9年のオープン以来口コミで評判になり、開店してすぐに売り切れになる日もあるほど。特にファンが多い食パン(3枚入り125円~)は、吟味された素材と出来たての味で、そのまま食べてもグー!ほかに、大粒の金時豆を使用したまめ食パン(250円)もはずせない。菓子パンのおすすめメロンパン(100円)は、表面にクッキーの生地を使っているので、サクサクの食感。調理パンでは、揚げていないカレーパン(120円)や、手作りマヨネーズが絶品のガーリックマヨネーズ(100円)、粘りがなく食べやすいなっとうパン(100円)など、オリジナルの手作りパンがズラリ。パンは全部で50種類あるが、店頭にすべてそろうことなく売り切れてしまうため、予約販売も行っている(注文は前日午後6時まで)。
営業時間は午前10時からなくなるまで
毎週月・木曜定休
●青柳町15-26
Tel:23-5610
8. 亀井勝一郎文学碑
青柳町アサリ坂に函館を代表する文学者亀井勝一郎の文学碑がある。亀井勝一郎は、明治26年函館元町に生まれ、弥生小学校、旧制函館中学校に学び、山形高等学校、東京帝国大学に進学した。東京帝国大学時代は共産党主義青年同盟に加わって政治活動を行い、昭和3年4月治安維持法違反容疑で検挙投獄された。そのときの獄中生活で文学書に親しんだことがきっかけとなり、後に日本プロレタリア作家同盟に入り文学評論を行うようになった。昭和12年「人間教育」で第4回池谷信三郎賞を受賞。戦後は仏教、古美術など日本文化への関心が深まり、日本の美と心を再発見。有名な「大和古寺風物誌」を著した。昭和40年日本芸術院会員となり、翌年「日本精神史研究」を執筆中に未完のまま永眠。終生函館弁を使い、どんな美食よりも函館の郷土料理を好んだという。この文学碑は昭和44年に建立された。碑文は亀井勝一郎が好んで色紙に書いたという「人生邂逅し、開眼し、暝目す」という文が刻まれている。
9. 崚
「普通のことを普通にやってもおもしろくない。他人がやらないことをやるんだ。どうせやるなら徹底したこだわりもってさ」と、威勢のよい声が店内に響く。昨年の3月、函館山ロープウェイ山ろく駅向かいにオープンした手打ちそば処・喫茶処「崚」は旨いそばと豪快なオヤジが魅力の一軒だ。モットーは良質の素材を無駄なく使い切ること。そばは100%そば粉使用で手打ちしたもの。そば湯はカンテンにしてあんみつを、だしを取った後の昆布はー品料理として提供している。おすすめはもりそばに、いなりずし、煮物、一品料理、漬け物が付いて850円のそばセットだ。砺波(となみ)のコシヒカリを五分つきで自家精米した、いなりずしは人気の一品。この米ぬかで作るぬか漬けも好評だ。窓からの眺めもいいので、ぜひ、お立ち寄りを。
●青柳町8-15
Tel:27-1438
10. 桜坂
函館に限らず、昔から坂にはその特徴や周囲の景観などから、実に素敵な名前が付けられることが多い。とりわけ、坂の多い函館の西部地区には、訪れる人々のイマジネーションやファンタジーをかきたてる有名な坂が幾つもあり、観光スポットにもなっている。そうした有名な坂に比べれば知名度は低いが、青柳町・函館公園横の坂にも、道行く人達のイマジネーションをかきたてる素敵なネーミングの坂がある。「桜坂」は、函館公園に咲き誇る美しい桜を、公園の外の坂から眺めることができることから、いつしかそう呼ばれるようになったという。
桜坂について書かれた文献はほとんどなく、実際、その坂を歩く人ですら、その坂の名が桜坂であることを知らない人も多いのではないだろうか。もちろん、坂に名前が付いていなくとも、そこから見る素晴らしい桜の風景が廃れるわけではない。しかし、この坂の途中に表記された「桜坂」の文字を目にすることで、そこを歩く人達にとっては、例え桜前線が通り過ぎた後の季節でも、坂沿いの木々に美しい桜が咲いている風景を想像させてしまう言葉の持つイマジネーションとは、きっとそういう函館人の文化とロマンがある。